ホテルの部屋の広いバスルーム内にあるアラブ式のトイレ(最後まで慣れませんでした)に座って間もなく、いきなりバスルームの照明が消えた。
一寸先も見えない真の暗闇状態で、何か事件でも起きたのかと動悸が激しくなる中で、何とかパンツを引き上げ、手探りで壁をつたい、やっとの思いでドアノブを見つけ、バスルームから外に出ると、窓際でスマホを見ていたシロヒゲ教授が振り向いて「どうかしましたか?」と聞いてくる。
「バスルームの照明が消えて、真っ暗になったけれど、どうしたんだろう?」
「あっ・・消えちゃいましたか。部屋の中から外の写真を撮ろうと思ったので、部屋の照明を消したのですが、バスルームの照明まで消えてしまいましたか・・・」と悪びれる様子も見せずにニヤニヤしている。
まあスイッチを間違えたのならしょうがないかと、バスルームに戻りシャワーを浴びる事にする。
先ほどの真っ暗闇の不安を忘れ、熱いシャワーを浴びた後、気分よくバスローブを着て、外に出ようとドアノブを廻すと、ドアが開かない。
いくらガチャガチャしても空回りしているようで一向に開く気配がないので、またまた不安になり、ドアをドンドンと叩き、「オ~イ 先生、ドアが開かない!」と大声で叫ぶと、「どうしましたか?」と落ち着いた声の教授。
教授が外側からガチャガチャやってもやっぱり開く気配がない。
密閉されているバスルームで、空気が薄くなりつつあるような気がして不安が高まる。
「オ~イ 先生、フロントに電話して誰か呼んでくれ!」
閉所恐怖症の私は、そろそろパニックになりかけている。
「わかりました。フロントに電話します。」
フロントは何番かと、調べている気配の教授。
ようやくわかったのか、電話をかけている声が聞こえてくる。
「Ah Ah Ah・・・Door Lock Ah Ah・・・ Please・・・」
大学の先生は、まず文法を検討してから、どんなセンテンスにするかを考え始めるようで、口ごもって話が進まない。
何かモゾモゾ話しているようだが、そのうち電話を切ってしまい、「大丈夫ですよ。フロントでは、OKと言ってましたから。」と平然としている。
「オ~イ 先生、それではダメだ!もう一度電話して EMERGENCY!!と怒鳴ってくれ!!」とパニクっている私。
「中にも、緊急用の電話があるでしょう。自分で掛けてみてください。」とあくまでもマイペースのシロヒゲ教授。
確かに緊急電話はあるが、こちらも焦っているので操作がわからない。
その内に、部屋のドアが開く音がして、急に静かになる。
いよいよ、置き去りにされて、ドバイの地で窒息死か・・・と観念した頃、ドヤドヤと人が入ってくる気配。
「今、掃除のオジサンを引っ張ってきて、ドアが開かないところを見せましたからね。応援を連れてきてくれますよ。」と冷静な教授。
どうやらドアの隙間から空気は入ってきているようなので(当たり前です)、少し落ち着いてバスタブのふちに座って待っていると、ドアの向こうから話声が聞こえてきた。
待つ事15分、ホテルのメンテナンス担当者が、ドアの鍵ごとはずす事に成功し、ようやく無事に、密室から脱出する事ができた。
「大変でしたねえ。」とやはりニコニコしている教授。
そういえば、朝方、教授がバスルームのドアをガチャガチャさせているのを思い出した。さらに、先ほどの暗闇事件。
まさか、私の閉所恐怖症を知った上でのいたずらでは・・・
しかし、世間では、一般的に良識の塊と言われている「大学教授」が、そんな事をするはずがないと思いなおして、打ち上げ会場へ向かった。
楽しく有意義だった視察会も終わりなので、メンバーそれぞれ思い出を語り、日本での反省会を約束して解散。
翌朝は、飛行機の便が早いので、午前4時起き。
教授に「お先に」と声をかけ、バスルームへ入り、ひげを剃り始めた時、再び悪夢のような真っ暗闇 そしてシロヒゲ教授の含み笑いが・・・・・
確信犯だあ!!
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